みそさざいの囁き(浅木ノヱの季語のある暮し)

生活の中に詩を、俳句を。季語のある暮しを楽しみます

啓蟄  2024.3

また呼んでゐる啓蟄の庭の夫 ノヱ 

 季節の到来が他より遅い我が家の庭も、雨が上がると急にあちこちで春が頭をもたげてくる。3度目の冬も元気に越せたようた。楊貴妃メダカが水面に姿を現した。植えっぱなしのチューリップが行儀よく芽を出した。その発見がうれしいのか、その都度子供のように私を呼ぶ夫。適当に相槌を打っていた私も、いつのまにか庭に出て、一緒になって小さな春をさがす。ただそれだけなのに、ただそれだけがとても楽しい。

 今日は啓蟄

 

 第76回実朝忌俳句大会の賞品が届きました。

 かまくら春秋社賞は鎌倉ペンクラブ編の「鎌倉かるた」。そんなものがあったのだと、今さらながらびっくり。

 来年も事前投句のみで、当日の句会はないようです。講演を楽しみにしていたので少々残念です。

 

若布干す

若布干す若布に頰を打たれつつ ノヱ 

 浜小屋の一番乗りはおばあさん。小さなコンロの薬缶が湯気をたてはじめるとおじいさんと、だんだん家族が増えてゆき、沖から軽やかな音を立てながら船が戻ってくる頃になると、家族総出の若布干しがはじまる。

 慣れた手つきで若布を選別していくおばあさん、胸まである白い長靴のおじいさんを中心に、張り巡らせた洗濯ばさみに若布をどんどん干していく。小さな子供も手渡すお手伝い。

 うららかな日差しの中、そんな穏やかな浜辺を白い富士山が見守る。

 *第1回俳人協会神奈川支部俳句大会 入選句

 

四日

大漁旗四日の富士を埋めけり ノヱ 

 1月4日は腰越漁港の船祝いです。雲一つなくはれ上がった空に、真っ白の富士山が聳えます。漁船には極彩色の大漁旗が飾られ、緩やかに揺れています。船出を待つひととき、漁によって黄金が返ってくるようにとの思いをこめて、見物人にみかんやお菓子が投げられます。

 見るだけのつもりで何も用意していなかったのですが、不思議です。みかんやお菓子が飛んでくると無意識に手が伸びます。「無理してキャッチするより、足元のものを拾ったほうが安全よ」と、ベテランのおばあさん。そこそこのお宝に戸惑っていると、きれいに畳んだスーパーの袋を出してくれました。

 

極月

                                           湘南の空師

極月の日差し大事につかひけり ノヱ 

 12月と聞くだけで、心急く思いがしてきます。ことにお天気が良い日には、あれもこれもと、しなければならないことが満載(のような気がするの)です。

 つい先日、近くの家で、3人組が椰子の古葉を取り除く作業をしていました。下のメンバーの指示で上の人が切っていくのですが、海からの風が強く、上の人は時折、首をすくめ、とがった椰子の葉先と格闘しているようでした。これも年末にむけての作業の一つなのでしょう。

 葉を一枚とるたびに雲の形が変わり、空が整っていくようで、高木の伐採作業者を「空師」と呼ぶのが納得です。

 但しこの日は、雲が雲を呼び、真っ青だった空が最後には曇ってしまったのが少々残念でした。 

 

 

障子貼る

切貼りの障子夕闇濃くあはく  ノヱ 

今年の障子は切り貼りで済ませた。やっと貼り終えた障子を見ると、

早くも夕闇が迫ってくる。切り貼りの花が様々な色を見せ、

夕映えの障子は刻々と色を変える一枚の絵となる。

(切り絵歳時記 小出蒐作品集より https://kirieshu.jimdofree.com)

 

我が家には大小33枚の障子がある。東大の襖クラブの方にお世話になったこともあったが、今は破れたら張り替える程度で毎年張り替えることはしない。今年もそろそろその時期がきた。記憶の底にある母の姿やら東大生の手際を思いおこして、自分なりの手際で貼る。小学生の図工程度の仕上がりだが、その未熟さがやる気をかきたてる。そう寒くならないうちに、仕上げてしまわねば。今年は色障子紙に挑戦!

 

豊の秋

立ち上る酢の香在所の豊の秋 ノヱ 

 10月28日は故郷の秋祭です。

 前日から台所はフル回転。祭の馳走は近隣の親戚にも重箱に入れて配ったものです。

 とりわけ特別なのは「ぼうぜ」と呼ばれるいぼ鯛を背開きにした姿鮨。収穫を終えた酢橘を入れたすし飯を塩を振り酢で締めたぼうぜ(ときに鰺)で包み、さらにその上に輪切りの酢橘を飾ります。当時はご飯の量が多くて食べにくかったのと、大きな魚の目がこわくて好物ではありませんでしたが、秋も深まり少し肌寒くなってくると無性に食べてみたくなります。

 ちょうど姉から、無農薬という名の自然のままの種多き酢橘が届いたので、一口サイズの鰺で作ってみました。

 秋刀魚、土瓶蒸しはもちろん、漬物、豆腐、鍋、紅茶、焼酎・・・何にでも酢橘を入れて楽しむ徳島県人なのです。

 

*今月の俳人協会のカレンダーに拙句が掲載されています。

新妻を荷台にのせて豊の秋 ノヱ 

第28回夢二忌俳句大会

榛名湖畔を望む夢二のアトリエ
榛名山麓の花野   

9月1日は竹久夢二の忌日、花野忌です。毎年この時期になると湖風が、松虫草のむらさきが無性に恋しくなるのが不思議です。

今年は前泊なしの当日参加のみ。湖の風も、日差しもまだまだ残暑の真っ盛りではありましたが、例年になく秋草が咲きそろい、花野の風情を十二分に楽しむことができました。

当日の句会の新企画として開催された10人の選者によるパネルディスカッションは、大変ユニークで聞きごたえがあり、実りの多い贅沢な一日となりました。

第26回夢二俳句大賞で江ノ電沿線新聞社「すみれの会」でご一緒している秋岡ゆうさんが受賞。ゆうさんは俳句をはじめてわずか1年です。本郷にある竹久夢二美術館に足を運び、そのときの第一印象をそのまま作句されたとのこと、「俳句は足でつくる」とはまさにこのことでしょうか。本当によかったです。

来年(2024)は夢二生誕140年、没90年。どんな句会になるか楽しみです。

 

水瓶をこぼるる星や夢二の忌 ななさと紅緒(ノヱ)

 

昨年、第25回夢二俳句大賞の受賞作です。