みそさざいの囁き(浅木ノヱの季語のある暮し)

生活の中に詩を、俳句を。季語のある暮しを楽しみます

啓蟄  2024.3

また呼んでゐる啓蟄の庭の夫 ノヱ 季節の到来が他より遅い我が家の庭も、雨が上がると急にあちこちで春が頭をもたげてくる。3度目の冬も元気に越せたようた。楊貴妃メダカが水面に姿を現した。植えっぱなしのチューリップが行儀よく芽を出した。その発見が…

若布干す

若布干す若布に頰を打たれつつ ノヱ 浜小屋の一番乗りはおばあさん。小さなコンロの薬缶が湯気をたてはじめるとおじいさんと、だんだん家族が増えてゆき、沖から軽やかな音を立てながら船が戻ってくる頃になると、家族総出の若布干しがはじまる。 慣れた手つ…

四日

大漁旗四日の富士を埋めけり ノヱ 1月4日は腰越漁港の船祝いです。雲一つなくはれ上がった空に、真っ白の富士山が聳えます。漁船には極彩色の大漁旗が飾られ、緩やかに揺れています。船出を待つひととき、漁によって黄金が返ってくるようにとの思いをこめて…

極月

湘南の空師 極月の日差し大事につかひけり ノヱ 12月と聞くだけで、心急く思いがしてきます。ことにお天気が良い日には、あれもこれもと、しなければならないことが満載(のような気がするの)です。 つい先日、近くの家で、3人組が椰子の古葉を取り除く作業…

障子貼る

切貼りの障子夕闇濃くあはく ノヱ 今年の障子は切り貼りで済ませた。やっと貼り終えた障子を見ると、 早くも夕闇が迫ってくる。切り貼りの花が様々な色を見せ、 夕映えの障子は刻々と色を変える一枚の絵となる。 (切り絵歳時記 小出蒐作品集より https://ki…

豊の秋

立ち上る酢の香在所の豊の秋 ノヱ 10月28日は故郷の秋祭です。 前日から台所はフル回転。祭の馳走は近隣の親戚にも重箱に入れて配ったものです。 とりわけ特別なのは「ぼうぜ」と呼ばれるいぼ鯛を背開きにした姿鮨。収穫を終えた酢橘を入れたすし飯を塩を振…

第28回夢二忌俳句大会

榛名湖畔を望む夢二のアトリエ 榛名山麓の花野 9月1日は竹久夢二の忌日、花野忌です。毎年この時期になると湖風が、松虫草のむらさきが無性に恋しくなるのが不思議です。 今年は前泊なしの当日参加のみ。湖の風も、日差しもまだまだ残暑の真っ盛りではありま…

かぶと虫

ひつぱれる糸まつすぐや甲虫 高野素十 隣の少年、虫が大好きだけあって、虫を見つけるのが大得意だ。ある日、大事そうに見せてくれたのが広町緑地で捕まえたというかぶと虫。 そう言えば、昔からかぶと虫は虫の王様、持ち主はヒーローだった。「ちょっとだけ…

夏空

鎌倉高校前からのぞむ相模湾 洗濯機より息子の夏を抱へだす ノヱ 長男がサッカー、次男がテニスに明け暮れた十年あまりは毎日が洗濯と食事にづくりに追われていました。夏の一日を満喫した証のような、燃え盛るエネルギーそのもののような汗と泥にまみれた洗…

でで虫

伯母のきものを利用した手作り四つ目綴じ本 一昨日からの雨がようやく止み、午後からは青空がひろがっています。 5月30日(火)ひらしん平塚文化芸術ホールにおいて、第1回俳人協会神奈川県支部俳句大会が開催されました。たくさんの名句、好評に出会い…

新緑

切絵:小出蒐 新緑や風に梳かせる旅の髪 ノヱ 早朝の谷川に沿って歩く。鳥の声やせせらぎに耳を澄ませ、新樹のかおりを胸に満たすと、体中の細胞が息づいてくるのがわかる。新緑の風が髪を梳くように吹き抜けてゆく。前へ前へと確かな足取り、高く上がった太…

花の駅発つ子ふたたび振り向かず   ノヱ

丸ポストは鎌倉のシンボル(極楽寺) 一度大きく手を振ると改札を足早に通り抜けていった息子は、もう二度と振り返ることはなかった。社会人としての新しい生活への不安よりもさらに大きな期待に胸をふくらませて踏み出した息子の一歩。「これでいいのだ」と…

雛祭

母の手づくりの内裏雛とわが古雛 生家では毎年3月3日にひな人形を飾り、ひな祭を祝うのは4月3日です。南国・徳島とは言え3月の初めはまだまだ寒く、桃や菜の花が山里を飾るのは4月になってから。雛祭も旧暦で行うほうが、より季節感を味わえるような気…

筆供養

荏柄天神社 筆供養 1月25日は初天神、三大天神のひとつである鎌倉・荏柄天神社では筆供養が行われます。例年なら先駆けの紅梅の満開の下に開催されるのですが、今年の梅はまだちらほら咲き。まして10年ぶりの寒波襲来ということで、人出もそれほどではありま…

寒稽古

切絵:小出蒐 高校時代は全国大会に出場したこともある弓道少女でした。 1月に開かれる射初式や寒稽古は、身の引き締まる寒ささえどこか心地よく、普段とは異なる緊張感や華やかさに心を躍らせました。大先生の模範演技の老いを感じさせない気迫、紫の小袖を…

みそさざい

七里ガ浜の初日と江の島 コロナ禍真っ最中の長男夫婦は帰宅せず。次男は書棚から古い文庫本の「雪国」を見つけ出してきて、読んでいます。静かで、あたたかな元日でした。 2023年1月号をもって、結社誌の編集業務を離れました。これからは東京に出ることも少…

飛蝗(ばった)

とまれ、こばった! 草の秀のとんで精霊ばつたかな ノヱ 切りとばした爪くらいの大きさだったバッタは目にするたびに大きくなり、ついに小指くらいの大きさに。それに合わせて食害は増え続け、大葉の葉は完全に消失。今年の零れ種から咲き始めた朝顔の葉も穴…

風船葛

わが家の竹垣に揺れる 昨日は、鎌倉句会で指導いただいている三上程子先生の朗読会に行ってきました。読物は太宰治の『饗応夫人』。三上先生のやや甲高く、細く艶めいた声が、「泣くように笑う女」の奥様を熱演され、他人に翻弄されながら落ちぶれてゆく女性…

花野忌

榛名山のふもとに広がる花野、紫色の花が松虫草 9月1日は竹久夢二の忌日です。今秋発売される角川大歳時記で、初めて夢二忌の傍題に「花野忌」が加わりました。それは30年近くにわたり「夢二忌俳句大会」を推進してきた俳人・木暮陶句郎をはじめとする群…