みそさざいの囁き(浅木ノヱの季語のある暮し)

生活の中に詩を、俳句を。季語のある暮しを楽しみます

かぶと虫

ひつぱれる糸まつすぐや甲虫 高野素十

 隣の少年、虫が大好きだけあって、虫を見つけるのが大得意だ。ある日、大事そうに見せてくれたのが広町緑地で捕まえたというかぶと虫。 

 そう言えば、昔からかぶと虫は虫の王様、持ち主はヒーローだった。「ちょっとだけ触らせてやるなんて」言われて、てのひらをさしだすと、ギザギザの爪が痛かったり、角で挟まれたり。びっくりして思い切り手をふると、かぶと虫が飛んで逃げてしまって、怒られたりしたものだ。

 でも時々、かさこそという音と独特のにおいに気がついて、窓の下をさがしてみるといるのだ、かぶと虫が。おそらく灯りを求めて飛び込んでくるのだろう。さあ大変。とりあえず菓子箱に穴をあけて虫かごにし、出したり入れたり、糸をつけてマッチ箱を引っ張らせたり。存分に触りまわすので、たいがいは朝には死んでいたり、逃げていたり。(もしかしたら、死んだかぶと虫をこっそり親が処分していたのかもしれない)。今思えば、子供時代はなんと残酷だったのだろう。

 ところが、隣の少年は違う。上手に卵を産ませたり、夏の終わりにはまた裏山に放してやるのだ。命の大切にする少年ゆえに、虫にも愛されるのだろう。

ふるさとの夜のにほへり甲虫  ノヱ